目黒区に実在するCafeスタジオ「らんすみれ」を舞台に、オーナーの「僕」とアーティストたちが繰り広げる物語。物語や写真はフィクションです。
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・第1話 様変わりするCafe
・第2話 一見さんお断りのCafeスタジオ(この記事です)
僕のCafeスタジオ「らんすみれ」は、少し変わっているかもしれない。
京都のお茶屋がある花街ではないが、基本は一見さんお断りにしている。
通常のフォトスタジオや、イベントホール、ホテルなどは、箱を作ったあとは、稼働率を高めていくのが商売の基本だ。使われていない時間は何も生まない。誰かが使っている状態が長い方が望ましく、それが場所貸しビジネスの基本だ。
だが、僕のCafeスタジオは「意志がある」。
もちろん多少の稼ぎは必要なのだが、僕の想いが詰まっている場所を、ビジネスライクに誰にでも貸すわけにはいかないと思っている。これまでの20年間は通常のCafeとして運営してきたので、どんなお客さんでも来店したし、どのCafeでも同じように、拒むお客さんなどありえなかった。
しかし、Cafeとしての役割をいったん終えた「らんすみれ」は、新しく生まれ変わった。(生まれ変わった理由は、第1話へ)
綺麗なジェダイカラーがスケルトンに写る、パイレックスガラスがクールなファイヤーキングのカップ&ソーサー、
何度も塗り直されたボディとシェードの裏の錆がカッコいい、ドイツ バウハウス究極の工業系ランプ、
芸術的な1点物ではなく、主張しすぎない昔の工業製品を気に入って集めている。雑貨を販売する商売も考えた事はあったが、これらのモノを手放すことは考えられなかった。僕のそばに置いていたい。
その大事なモノたちをそっと抱きかかえている「らんすみれ」。ここはお客さんを選ぶ場所だ。
この時代に、「らんすみれ」は公式サイトさえない。
僕がインターネットというシロモノが得意ではないという理由も大きいが、人との繋がりを大事にしているため、Facebookでの情報発信を主としている。
Facebookでは、「らんすみれ」で行われたファッション雑誌の撮影風景や、アーティストたちの様子を掲載している。そして、そういった情報に友人や、友人の友人たちが反応してくれるのは、僕の楽しみのひとつだ。
「私もこんな作品を撮ってみたいです!」
ある時、そんなコメントをもらった。
彼女のプロフィールを見ると、美容師のようだ。それから彼女はよくFacebookでコメントをくれるようになり、自然とコミュニケーションを重ねた。
話をしていくと、今は鎌倉で美容師として働いていること、その美容室はいわゆる「作品撮り」ということはしないため、仕事で自分のヘアカットやアレンジをしたモデルを撮るような機会はないが憧れはある、ということを教えてくれた。
彼女と会った事はなかったが、僕のCafeスタジオで作品撮りをしてみたいという。
もしかしたら、一見さんお断りというと、堅物の頑固モノだと思う人もいるかもしれない。しかし、自分でいうのも何だが柔軟性はある。オンラインの出会いだからといって、無下にはしない。
僕は頑張っているアーティストが好きなのだ。彼女がつくる作品を見てみたかった。
数日後、彼女と同じ美容室で働いているメンバー数人を連れて、「らんすみれ」へやってきた。
第3話へつづく。
「Cafe らんすみれ」も「僕」も実在しますが、物語や写真はフィクションです。引き続き、「Cafe らんすみれ」に没頭する「僕」や、作品作りに没頭するアーティストたちの、新感覚コラム『&Artist』をお楽しみください。※ただし、店内の写真はだいたいホンモノです
企画・文/tocco
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