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新感覚コラム 『&Artist』第3話 アーティストの卵

&Artist らんすみれ
新感覚コラム『&Artist(アンド アーティスト)』

目黒区に実在するCafeスタジオ「らんすみれ」を舞台に、オーナーの「僕」とアーティストたちが繰り広げる物語。物語や写真はフィクションです。

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・第1話 様変わりするCafe
・第2話 一見さんお断りのCafeスタジオ

「こんにちわぁ!」

「うわぁー、やっぱり素敵なスタジオ!ここであの作品が撮影されたんだねぇ。」

AM10:00になる少し前に、彼女たちはやってきた。

「こんにちは、佐々木サクラです。いつもFacebookみてます。こうやってお会いするのははじめてですね、今日はよろしくお願いします!」

彼女はサクラというのか。うちのCafeスタジオは「らんすみれ」。花に縁があるな、そんなことをふと思った。

「今日は、モデルさんに来ていただいたんです!私たちは作品撮りということをしたことがないんですが、町田さんが作っているような作品を目指したいんです!」

サクラは意気込んでいた。

よほど、町田くんの作品に影響されているのだろう。

町田くんとはうちに出入りしている、ヘアメイクアーティストだ。彼の作品は一言でいうと、ファンタジーの世界だ。白を貴重とし、少女のようなあどけないモデルにふわふわのドレスを着せる。シャンデリアが飾られ、鳥の羽が舞う。作りこみに妥協がなく、彼の世界観に憧れるアーティストも多い。

Photo Saho Hosaka Hair Make Kazuya Imamura Space らんすみれ
Photo Saho Hosaka
Hair Make Kazuya Imamura
Space らんすみれ
※イメージです

サクラもその世界観に魅了された1人だ。

今日の作品撮りには、サクラ以外に3人来ていた。いつもプロたちの現場を見ているので、彼女たちの雰囲気がフレッシュで初々しいと感じる。そして、みんなどことなく浮ついている。

「あ!ここ、町田さんの作品で使われていた場所かも!ねーねー、そうだよね?ここで、本番撮影しようよ!」

「そうだね。じゃあモデルさんにはこっちに来てもらって、ヘアとメイクをしようか?モデルさーん、こちらに来ていただけますか?」

だいたいイメージは固めてきたようだ。

僕は、フレッシュなアーティストも好きなのだ。まだどことなくぎこちない彼女らを、サポートしたいと思う。もちろん彼女らが求めてくればの話だが。

サクラたちは自分たちが持っている道具を並べ始めた。

彼女たちが働いている鎌倉の美容院では、こういった作品の撮影もなければ、お客さんにメイクをすることもないという。メイク道具は、美容学校で使っていたものを持ってきたようだ。

美容師になる夢を持って、きっと楽しい学生時代を過ごしていただろう。メイクも授業にあったはずだ。卒業制作ではアーティスティックな作品に没頭しただろう。しかし、いざ卒業して地元の美容院に勤めてみると、アートやショーなどとは無縁の、地域密着型の接客業が待っていた。

もちろん、自分を指名してくれるお客さんが増え、母親や父親と同じ年代のお客さんと世間話をしながら一日が過ぎていくことも、幸せだろう。

しかし、若い彼女たちは、沸々とした想いを持っていたようだ。

「ヘアはこのボリューム感でいいかな?」

「ちょっとイメージが違うなぁ」

「チークって頬骨のどこらへんに入れると、若々しく見えるんだっけ?」

普段はプロの美容師として働いている彼女たちも、ここでは学生のようなはしゃぎ方をしている。時に真剣に、時に笑いながら、作品作りは進んでいった。

モデルの髪にボリュームを出し、自分たちが持ってきたヘアアクセサリーやリボンなどを絡めていく。しかし、作ってみては壊しの繰り返しで、なかなかうまくいかないようだ。メイクを担当しているメンバーもどことなく自信がないように見える。

プロは良い作品ができるまで妥協をしないし、集中力が長く続く。しかし彼女たちは、昼を過ぎたころから、1人2人と椅子に座ってスマホをいじりだすメンバーが出てきた。

「もう完成だよね?撮影しようよ」

「え、ちょっと待って!もう少し、ヘアにこのアクセサリーを付け足したいの。」

サクラだけが、まだ納得いっていないようだった。僕の目から見ても、その手際はいいとは言えなかった。普段と全く違うことをやっているのだから当然だろう。他のメンバーはすでに談笑をしはじめている。

それから1時間くらいしただろうか。

「できた!撮影しよう!」

とうとう撮影にとりかかる。

もちろんプロのカメラマンはいない。友人から借りてきたという古い一眼レフを使って撮影をするという。みんなでヘアや服を支えながらモデルを、撮影場所まで移動させ撮影をはじめた。

僕は彼女たちを見ながら思っていた。

「これを撮ってどうするのか」

それぞれのクリエイターが自分のプライドを賭けた大切なテストシューティングとは、営業、プレゼン、オーディション、フリーランスが生きて行くための「武器」を増やす命懸けの行為。

しかし、残念ながら、彼女らの今日は、今を楽しむ「思い出作り」「お祭り」であった。

1人を除いて…

第4話へつづく。

「Cafe らんすみれ」も「僕」も実在しますが、物語や写真はフィクションです。引き続き、「Cafe らんすみれ」に没頭する「僕」や、作品作りに没頭するアーティストたちの、新感覚コラム『&Artist』をお楽しみください。

企画・文/tocco

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