食堂かたつむりのジュテームスープ【美味口福を読む5】

食堂かたつむりのジュテームスープ【美味口福を読む4】

2008年1月に発刊された小説『食堂かたつむり』の著者は小川糸氏。この作品は2011年7月にイタリアの書店が優れた文学作品に与える権威ある文学賞『バンカレッラ賞料理部門賞』を受賞した。

 過去にはあのヘミングウェイの名作『老人と海』も受賞した素晴らしい賞である。また、2010年には映画化(東宝)され、女優・柴咲コウが倫子を熱演し人気を博し話題になった作品でもある。

 


 
 一緒に暮らしていたインド人の恋人に裏切られ、家財道具一式と必死で貯めた飲食店の開業資金があった部屋はもぬけの殻となっていた…。失意のどん底に落ちた主人公『倫子』。ショックのあまり心因性失声性になった。ただ一つ、祖母の形見『ぬか床』だけは無事だった。それだけでも倫子は嬉しかった。祖母から受け継ぎ大事に守ってきたぬかは貴重だった。これを機に故郷に戻った。

 帰省後、倫子は夢だった自分の店『食堂かたつむり』をオープンし、慌しい毎日を送りながらも幸せを感じていた。作中には発想力豊かな料理が多数登場する。

ザクロカレー、林檎のぬか漬け、比内地鶏を丸ごと一羽焼酎で煮込んだサムゲタンスープ、ジュテームスープ、豚肉を使った世界一周料理(フランス風ミミガーサラダ、中国のルウツァイ、ミャンマーのチェイオーという汁そば、沖縄料理の足テビチ、フランスのポトフ、イタリア風酢豚、ベトナム風生春巻き、四川風麻婆豆腐、トルコのピーマンドルマ、ロシアのピロシキ、アメリカンスペアリブ、椒塩排骨という中国風唐揚げ他)など個性的でインパクトのあるメニューが並んでいる。

 ある時、『食堂かたつむり』で食事をすると願い事や恋が叶うという噂が流れた。それから客足が順調に増えていった。中でも筆者が気になったのが、恋のキューピットとして一役買っている『ジュテームスープ』である。

”私は厨房にある野菜の中から次々と選んでそれらを細かく刻み、火の通りにくいものから順にバターで炒めた。かぼちゃを選んだのは、サトル君のまいていたマフラーが鮮やかな芥子色で、それがきれいだったから。人参は、窓の向こうに広がる夕焼けの色を表現したかったから。最後に加えた林檎は、桃ちゃんのかわいらしいほっぺたが赤い林檎を連想させたからだ。”

”月桂樹を入れたスープストックでコトコト煮込み、最後にバーミックスで攪拌すると、淡い色彩のとろりとしたスープが完成する。味付けは塩だけにした。”

 

 ほんのり甘酸っぱくて、濃厚な味のスープの画が勝手ながら私の脳内で完成している。それは野菜本来のうまみが凝縮した味であろう。かぼちゃの鮮やかなハッとする色…口に含んだらきっと、心までも温かくなるスープであろうと想像した。
 
 ここで、かぼちゃを使ったスープを作るときのコツを元フードコーディネーターとしてお伝えしたい。かぼちゃの皮を剥いてスープに使用するのであれば、かぼちゃ本来の実の色が綺麗に出て口当たりも滑らかなものが完成するが、かぼちゃの皮には、実より多くのβカロチンや食物繊維が含まれており栄養価が高い。捨てずに食べることをお勧めする。このスープに皮付きで投入する場合は、スープの色がくすんでしまうのでニンジンを併せて入れると良い。また、手間だが一度スープを漉すと、口当たりが滑らかで飲みやすくなる。料理はひと手間かけるだけで驚くほど美味しくなる。まるで魔法のようだ。

”料理を捨ててはいけない。心からそう思った。”
”身近な人に、喜んでもらえる料理を作ろう。食べた人が、やさしい気持ちになれる料理を作ろう。たとえちっぽけな幸福でも、食べた後、幸せになれる料理を、これからもずっと、作り続けていこう。ここ、食堂かたつむりの、世界にひとつしかない厨房で。”

 

 この本を読んで、『生きることは食べること』…食べることは他の命をいただいている行為であること。食べることは神聖であり崇高な儀式だと再認識した。現代社会は飽食の時代と言われているが、その一方で食品廃棄が深刻な問題になっている。日本では年間約2,000万トン=約11兆円分が廃棄されているそうだ。食事を通じて、命をいただいていることに感謝し倫子のように食材を無駄にしない精神を真似したい。

 また、2010年1月にポプラ社から食堂かたつむりの料理』という本が出版された。この本には、食堂かたつむりで登場する11メニューのレシピが掲載されている。ぜひ挑戦してみてはいかがだろうか?食堂かたつむりの世界観に更にどっぷりと浸れるであろう。


 料理や食は幸せの象徴である。身近な人を思いやり、心を込めて作った料理はそれだけでご馳走だと思った。家族や身近な人に笑顔を与えられるような、思い出に残るような料理を作り続けたいと心に決めた。

食堂かたつむり (ポプラ文庫)
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【連載:美味口福を読む】
本に登場する料理やスイーツを、食べてみたいと思ったことはないだろうか。また、その作品を生み出した文豪や物書きたちはグルメであることも多く、そう聞くと彼らは何を口にしていたのか気になるだろう。そんな「本とグルメ」をテーマにお贈りするのが、連載【美味口福を読む】。イマジネーションを働かせながら、美味しい1ページを読んでみよう。

文/cloud9
経歴:ラジオ局勤務、空港職員、IT関係、フードコーディネーター職などを経て現在は主にフリーライターとして邁進中。好きなことは、食べ歩き、旅行、料理、大相撲観戦、パワースポット巡り。好奇心旺盛でおっとりマイペースなタイプ。

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食堂かたつむりのジュテームスープ【美味口福を読む4】

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